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いのちを支える医療機器のスペシャリスト「臨床工学技士」とは?仕事内容・なり方・年収・将来性を徹底解説

いのちを支える医療機器のスペシャリスト「臨床工学技士」とは?仕事内容・なり方・年収・将来性を徹底解説

医療技術の高度化に伴い、病院やクリニックに不可欠な存在となっている「臨床工学技士」。

しかし、具体的にどのような仕事をしているのか、どうすればなれるのか、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、臨床工学技士という職業について、仕事内容から必要な資格、学校選び、国家試験、年収、やりがい、他の医療職との違いまで、網羅的に解説します

臨床工学技士を目指す方はもちろん、医療系の仕事に関心のある方も、ぜひ参考にしてください。

【この記事で分かる内容】

  • ✅臨床工学技士の具体的な仕事内容と役割、扱う医療機器の種類
  • ✅主な勤務先(病院、クリニック、企業など)と業務内容の違い
  • ✅国家試験の難易度・合格率、臨床工学技士になるための国家試験について
  • ✅平均年収の目安、年齢や施設による違い、給与や待遇・働き方の実態
  • ✅仕事のやりがいと大変な点、向いている人の特徴
  • ✅放射線技師や理学療法士など、他の医療職との業務内容の違い

臨床工学技士とは?仕事内容・役割・働く場所を解説

臨床工学技士とは?仕事内容・役割・働く場所を解説

まず、臨床工学技士がどのような職業で、具体的にどのような業務を行い、どこで活躍しているのかを見ていきましょう。

臨床工学技士とは何をする職業か

臨床工学技士(Clinical Engineer, CE)は医師の指示のもとで、生命維持管理装置をはじめとする医療機器の操作、保守、点検を行う専門職です。

医学と工学の両方の知識を活かし、医療機器が安全かつ効果的に使用されるよう管理することで、患者さんの命と健康を守る重要な役割を担っています。

現代医療における「いのちのエンジニア」とも言える存在です。

主な仕事内容|操作・点検する医療機器の種類

臨床工学技士の業務は多岐にわたりますが、中心となるのは以下の業務です。

  • 🔵生命維持管理装置の操作・監視:
  • 人工呼吸器、人工心肺装置、血液透析装置など、患者さんの生命維持に直結する高度な機器を医師の指示のもとで操作し、状態を監視します。
  • 🔵医療機器の保守・点検:
  • 院内にある様々な医療機器(心電図モニター、輸液ポンプ、除細動器、ペースメーカー、内視鏡機器など)が常に安全かつ正常に作動するよう、定期的な点検やトラブルシューティング、修理を行います。これらの機器は、患者さんの状態把握や治療に不可欠なものです。
  • 🔵医療機器の安全管理:
  • 医療機器の安全な使用方法に関する院内研修の実施や、安全情報の収集・提供、事故防止策の検討などを行います。
  • 🔵医療機器の導入・管理:
  • 新しい医療機器を選定・導入する際の評価や、院内の医療機器を一元的に管理する業務も担当することがあります。操作・点検する機器は、呼吸器系、循環器系、代謝系(透析)など、非常に幅広く、それぞれに専門性が求められます。

操作・点検する機器は、呼吸器系、循環器系、代謝系(透析)など、非常に幅広く専門性が高いのが特徴です。

勤務先の種類と施設ごとの業務の違い(病院・透析クリニックなど)

臨床工学技士の主な活躍の場は以下の通りです。

  • 🔵病院(大学病院、総合病院、一般病院など):
  • 最も多くの臨床工学技士が働く場所です。手術室、集中治療室(ICU)、心臓カテーテル室、血液浄化センター、MEセンター(医療機器中央管理室)など、様々な部署で幅広い医療機器の操作・管理に携わります。特に急性期医療を担う病院では、緊急性の高い業務も多くなります。
  • 🔵クリニック(主に透析クリニック):
  • 血液透析療法を専門に行うクリニックでは、透析装置の操作、穿刺、患者管理、水質管理などが主な業務となります。患者さんと密接に、かつ長期的に関わることが多いのが特徴です。
  • 🔵医療機器メーカー・販売会社:
  • 企業に所属し、自社製品の開発、営業サポート、顧客(病院など)への使用トレーニング、保守サービスなどを担当します。
  • 🔵教育・研究機関:
  • 大学や専門学校で後進の育成に携わったり、医療機器に関する研究開発を行ったりする道もあります。

施設の種類や規模によって、担当する業務範囲や専門性が異なります。

臨床工学技士になるには?必要な資格・学校・進路を紹介

臨床工学技士として働くためには、国家資格の取得が必須です。ここでは、資格取得までの流れや、学校で学ぶ内容について解説します。

臨床工学技士国家資格とは

臨床工学技士になるためには、「臨床工学技士国家試験」に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があります

医師や看護師のように「その資格がないと特定の業務を行えない」という業務独占資格ではありませんが、臨床工学技士という名称を用いて生命維持管理装置の操作などの専門業務を行うためには必須となる「名称独占資格」です。

医療機器の専門家としての知識・技術を証明する国家資格であり、医療現場での信頼を得るために不可欠です。

資格取得までの流れ(大学・専門学校)

臨床工学技士国家試験を受験するには、まず文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する臨床工学技士養成校(大学、短期大学、専門学校)で、定められたカリキュラムを修了し卒業する必要があります

資格取得までの流れは、以下の通りです。

  1. 養成校への入学: 高校卒業後、臨床工学技士養成課程のある大学(4年制)、短期大学(3年制)、または専門学校(3年制または4年制)に入学します。
  2. 専門知識・技術の習得: 養成校で、基礎医学、臨床医学、工学、医用工学に関する講義や実習を受けます。
  3. 卒業: 所定の単位を修得し、卒業(または卒業見込み)となります。
  4. 国家試験の受験: 卒業(見込み)の資格をもって、年に1回実施される臨床工学技士国家試験を受験します。
  5. 合格・免許申請: 国家試験に合格後、免許申請を行い、臨床工学技士名簿に登録されることで、正式に臨床工学技士となります。

※すでに大学等で指定科目を履修している場合や、関連資格(看護師、臨床検査技師など)を持っている場合は、専門学校などで1~2年学ぶことで受験資格を得られる場合もあります。

必要な科目・勉強内容

養成校では、医学と工学の両分野にわたる幅広い知識を学びます。主な科目は以下の通りです。

  • 🔵基礎医学: 解剖学、生理学、生化学など
  • 🔵臨床医学: 内科学、外科学、麻酔科学、集中治療医学など
  • 🔵基礎工学: 電気工学、電子工学、機械工学、情報工学など
  • 🔵医用工学・生体工学: 生体計測装置学、医用治療機器学、生体機能代行装置学(人工呼吸器、人工心肺、血液浄化など)、医用機器安全管理学など
  • 🔵関連法規

座学だけでなく、実際の医療機器を用いた実習や、病院での臨床実習も重要なカリキュラムです。

医学と工学という異なる分野を結びつけて理解する必要があるため、幅広い分野への興味関心と、計画的な学習が求められます。

特に、高校での物理や数学、生物の基礎知識があると大学や専門学校での学習がスムーズに進むでしょう

在学中は、苦手科目を作らないように努力し、合議や実習にも積極的に取り組むことが、国家試験合格に繋がります。

臨床工学技士の国家試験の出題範囲と合格ライン

臨床工学技士になるための最後の関門が国家試験です。ここでは、試験の概要と効果的な対策について解説します。

国家試験の出題範囲と配点

臨床工学技士国家試験は、マークシート方式で、午前と午後に分けて実施されます。

出題範囲は養成校で学ぶ内容全般にわたり、以下のように幅広い分野から出題されます。

  • 🔵医学概論(公衆衛生学、関係法規等を含む)
  • 🔵臨床医学総論(内科学、外科学、臨床生理学等)
  • 🔵医用電気電子工学
  • 🔵医用機械工学
  • 🔵生体物性材料工学
  • 🔵生体機能代行装置学
  • 🔵医用治療機器学
  • 🔵生体計測装置学
  • 🔵医用機器安全管理学

合格基準は、総得点の6割程度とされていますが、毎年若干変動する可能性があります。

合格率の推移と合格に必要な勉強時間

臨床工学技士国家試験の合格率は、例年70%~80%台で推移しており(※最新の合格率は厚生労働省の発表をご確認ください)、他の医療系国家資格と比較すると比較的高い水準にあります

しかし、これは養成校でのしっかりとした教育と、学生自身の努力の結果です。決して簡単な試験ではなく、十分な対策が必要です。

合格に必要な勉強時間は個人差が大きいですが、養成校での日々の授業や実習に加え、最終学年では国家試験対策に集中する期間が必要となります。

多くの学生は、数ヶ月から1年程度の期間、計画的に過去問演習などを中心とした受験勉強に取り組みます。

臨床工学技士の年収・待遇・働き方とは

臨床工学技士の年収・待遇・働き方とは

職業選択において、収入や働き方は重要な要素です。臨床工学技士の年収、待遇、働き方の実態について見ていきましょう。

平均年収と年齢別・施設別の違い

臨床工学技士の平均年収は、一般的に400万円~550万円程度が目安とされていますが、これはあくまで平均値であり、個々の経験年数や勤務先の種類、地域などによって大きく変動します。

年収に影響を与える主な要因とその傾向を以下の表にまとめました。

要因年収への影響・傾向
年齢・経験年数・新卒の場合は300万円台からのスタートが多い
・経験を積むにつれて昇給し、30代、40代と年齢とともに増加する傾向がある
・管理職(技士長など)になると、さらに高い年収が期待できる
勤務先の種類・規模・一般的に、大学病院や大規模な総合病院の方が、クリニックや中小病院よりも給与水準が高い傾向がある
・医療機器メーカーなどの企業勤務の場合は、個人の業績や役職によって給与が大きく変動する可能性がある
勤務地域・都市部の方が地方よりも給与水準が高い傾向が見られる
各種手当・資格手当、役職手当、危険手当、待機(オンコール)手当、時間外手当など
・これらの手当の有無や金額が、最終的な年収総額に影響を与える

※上記の表はあくまで一般的な傾向を示すものです。詳細な情報は、厚生労働省の統計データや、実際の求人情報をご確認ください。

実際の給与は、各施設の給与規定や個人のスキル・経験によって具体的に決定されます。就職・転職活動の際には、個別の求人情報をよく確認することが重要です。

夜勤や当直の有無、休日・勤務形態について

臨床工学技士の働き方は、勤務先によって大きく異なります。主な勤務先ごとの勤務時間や休日の傾向を以下の表にまとめました。

勤務先勤務時間・シフト休日・勤務形態の特徴
病院・手術室やICU、救急部門など24時間体制の部署担当の場合、夜勤や当直(オンコール待機含む)があるのが一般的・シフト制勤務が多く、生活が不規則になりやすい
・休日は平日・土日問わず不定期になることが多い
透析クリニック・多くの場合、日中のみの勤務
(一部、準夜勤務がある施設も)
・比較的、規則的な勤務形態
・日曜日が固定休など、休日パターンが決まっていることが多い
医療機器メーカー等・基本的に日中勤務・土日祝日が休みとなることが多い
・ただし、担当業務によっては出張や休日対応が発生する場合あり

年間休日数: 勤務先によらず、年間休日数が110日~120日前後に設定されている施設が多いようです。
有給休暇: 有給休暇の取得のしやすさは、配属部署の人員体制や業務の状況など、職場環境によって異なります。

このように、臨床工学技士といっても、勤務先によって勤務時間や休日のパターンは大きく異なります。ご自身の希望するライフスタイルに合わせて、勤務先を選ぶことが重要になります。

昇進・資格取得によるキャリアアップ

臨床工学技士として経験を積む中で、様々なキャリアアップの方法があります。

専門性を深める一つの方向性として、透析、循環器、呼吸療法、手術室業務といった特定の分野に関する知識や技術を深く追求し、専門性を高めることが挙げられます。

専門性を証明する認定資格の例

関連学会が認定する専門資格などを取得すれば、自身の専門性を客観的に示すことができ、業務の幅が広がったり待遇面で評価されたりすることもあります。

臨床工学技士が取得を目指せる主な認定・専門資格には、以下のようなものがあります。

  • 専門臨床工学技士
  • 血液浄化専門臨床工学技士
  • 不整脈治療専門臨床工学技士
  • 呼吸治療専門臨床工学技士
  • 高気圧酸素治療専門臨床工学技士
  • 手術関連専門臨床工学技士
  • 心血管カテーテル治療専門臨床工学技士
  • 内視鏡関連専門臨床工学技士
  • 透析技術認定士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 体外循環技術認定士
  • 植込み型心臓デバイス認定士
  • 消化器内視鏡技師
  • 高気圧酸素治療専門技師
  • MDIC (医療機器情報コミュニケータ)
  • 第1種ME技術実力検定

マネジメントや教育・研究、企業への道

また、リーダーシップを発揮し、経験を重ねることで、主任や技士長といった管理職へと昇進する道も考えられます。この場合、部署の運営や後進の育成といったマネジメント業務を担うことになります。

さらに、養成校の教員となって後進の育成に携わる、あるいは大学院に進学して研究者の道を目指すといった選択肢もありますし、臨床経験を活かして医療機器メーカーなど企業へ活躍の場を移すことも可能です。

臨床工学技士のやりがいと向いている人の特徴

どのような仕事にも、やりがいと大変さがあります。臨床工学技士の仕事の魅力と、求められる資質について見ていきましょう。

命に関わる機器を扱う責任と誇り

臨床工学技士の最大のやりがいは、医療機器を通して患者さんの治療に深く貢献できることです

生命維持管理装置など、まさに「命の砦」となる機器を安全に操作・管理することで、患者さんの命を救い、回復をサポートできることに、大きな責任と共に誇りを感じることができるでしょう。

医師や看護師など他職種と連携し、チーム医療の一員として頼りにされることも、大きなやりがいにつながります

また、日々進歩する最先端の医療技術に常に触れられることも、知的好奇心を満たしてくれる魅力の一つです。

向いている人の性格・スキル・適性

臨床工学技士に向いているのは、以下のような資質を持つ人です。

  • 🔵責任感が強い人: 人の命に直結する仕事であるため、強い責任感と倫理観を持っていることが最も重要です。
  • 🔵機械や電気に興味がある人: 医療機器の仕組みや操作に興味を持ち、工学的な知識を探求することが好きな人に向いています(「機械いじりが好き」という興味も入口になります)。
  • 🔵細やかで正確な作業が得意な人: 機器の操作やメンテナンスには、高い集中力と正確性が求められます。
  • 🔵冷静沈着な人: 緊急時にも慌てず、落ち着いて的確な判断・対応ができる能力が必要です。
  • 🔵コミュニケーション能力がある人: 医師、看護師など、多くの医療スタッフと連携して業務を進める、円滑なコミュニケーション能力が求められます。
  • 🔵学習意欲が高い人医療も工学も進歩の速い分野であるため、常に新しい知識や技術を学び続ける意欲が必要です。
  • 🔵体力がある人: 不規則な勤務(夜勤など)や立ち仕事、時には重い機器の移動などに対応できる体力もある程度必要です。

医学と工学の両方に興味があり、「医療を通じて人の役に立ちたい」という気持ちを持っている人にとって、非常にやりがいのある仕事と言えるでしょう。

臨床工学技士と他の医療職との違いを比較

医療現場には様々な専門職がいますが、臨床工学技士はどのような点で他の職種と異なるのでしょうか。代表的な職種と比較してみましょう。

臨床工学技士と他の医療専門職との違いを比較

臨床工学技士の役割をより深く理解するために、比較的間違われやすい職種の放射線技師や理学療法士との違いを表にまとめました。

比較項目臨床工学技士 (CE)診療放射線技師 (RT)理学療法士 (PT)
主な業務内容・役割生命維持管理装置をはじめとする医療機器の操作・保守管理、安全管理を行う【機器の専門家】X線撮影、CT、MRI、放射線治療装置等の放射線関連機器の操作、画像情報の管理・提供を行う【画像・放射線の専門家】運動療法や物理療法(温熱、電気刺激等)を用いて、身体機能の回復・維持・向上を支援するリハビリテーションを行う【動作・リハビリの専門家】
専門知識の基盤工学、医学放射線物理学、画像技術、医学運動学、解剖生理学、リハビリテーション医学
患者さんとの関わり方(主な側面)主に医療機器を介して患者さんの治療に関わる主に画像検査や放射線治療の実施時に患者さんに直接関わるリハビリテーション実施時に、患者さんに直接触れ、指導・支援を行う

このように、臨床工学技士、診療放射線技師、理学療法士は、それぞれ異なる高度な専門性を持って医療に貢献しています。

各職種が専門性を発揮し、互いに情報を共有し連携することで、患者さんを中心とした質の高いチーム医療が成り立っています。

医療チーム内での役割と協働の実際

臨床工学技士は、医師、看護師、臨床検査技師、放射線技師、理学療法士、薬剤師など、多くの専門職で構成されるチーム医療の中で、「医療機器の専門家」という独自のポジションを確立しています

特に、生命維持管理装置を使用する手術室やICU、血液浄化療法を行う透析室、心臓カテーテル検査・治療を行う循環器部門などでは、その専門性が不可欠です。

各職種がそれぞれの専門知識・技術を持ち寄り、情報を共有し、連携することで、患者さんにとって最善の医療を提供しています。

まとめ|臨床工学技士を目指す人へ伝えたいこと

今回は、「いのちのエンジニア」臨床工学技士の仕事内容からなり方、国家試験、年収、キャリアパスまで幅広く解説しました。

医療技術の目覚ましい進歩や高齢化に伴い、生命維持管理装置など高度な医療機器を安全かつ有効に扱う臨床工学技士の需要は、今後も高まると予想され、社会貢献度が高く安定した将来性を持つ専門職と言えます

このやりがいある仕事に就くためには、指定された養成校での専門知識と技術の習得、そして国家試験の合格が必須です。

臨床工学技士に興味を持たれた方は、早い段階から養成校の情報収集(学校のウェブサイトを見たり、オープンキャンパスに参加したりする)や、基礎となる理数系科目の学習など、計画的に準備を進めていきましょう。

本記事が、皆さんの未来を考える上での一助となれば幸いです。